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村上春樹の「海辺のカフカ」を読み返している。もう5回目くらいだろうか。今回は機が熟したのか格段に読み込むことができてうれしく思っている。随所に「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」そして「アフターダーク」の気配を感じながら読み進めている。
それぞれの作品やモチーフが緻密に計算された上で、絶妙に互いのメタファーになっている。構造的には「海辺のカフカ」と「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」は非常によく似ている。いわば背中合わせに置かれた2枚の鏡のように。鏡のこちら側の世界と、あちら側の世界、「アフターダーク」でも登場したこのモチーフそのままに。
同時にこの2作品は向かい合わせに置かれた2枚の鏡のようでもある。自身の鏡像としての互の姿を互いの鏡像の中に無限に映し込み合っている。それは見事に面対称であり同時に相似形でもあるが、決して同一ではない。ただ、それぞれの物語は密接に「アンダーグラウンド」で見えない水路によって繋がっている。
「アフターダーク」はそのような2枚の鏡の様子を写し出すもう1枚の鏡として、同じ部屋に存在する。それはあたかも存在を持たないひとつの「視点」としてそこにある。これらの物語は互いに互いの物語あるいは「古い夢」を包含しているようにみえる。その関係性を見抜き認識することができれば、そこに全体像とでも言うべきものが浮かび上がってくるのだろう。
ここにいたって、初めて「海辺のカフカ」を面白いと感じながら読むことができるようになった。より深い奥行きを実感しながら映像化することができるようになった。先に論じた2作品はこの作品の一部であり、あるいは全部である。全編を通じてそれらはこの物語の背後に影のようにつきまとっている。
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