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「今日は雪は降らな」いと昨日僕は妻に断言した。そして、昨日雪は降らなかった。しかし今日の未明から短時間雪が降った。それは数センチ積雪したが、朝起きてみるとほとんど溶けていた。冬将軍の斥候としてはどうなのだろう、ちょっと認めがたい降り方ではある。
そのとき僕は村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読み返していた。寝る前に1章?2章ずつ読み返すのがここのところの習慣になっているのだ。読むたびにこの小説の奥の深さに感嘆せざるを得ない。この前後の作品と地下水脈で密接につながっているモチーフをあちらこちらに発見する。
たとえば「世界の終わり」の街の図書館の娘と「南のたまり」に出かける場面などは、後の作品「ノルウェイの森」で主人公と直子がハイキングするあの草原の情景を思わせるし、街のたたずまいやその世界自体が「海辺のカフカ」の終末部分に登場する深い森に囲まれた不思議な町と相似形をなしていることに気づく。
そんなことを考えながら読書していると、僕は異様な静けさに雪の気配を感じた。窓のカーテンを開けてみると、ちょうど雪が降り始めたところだった。雪はいつも世界中の音という音を吸収してまるで「音抜き」をしたように降りしきるものなのだ。
たとえようのない静謐に満ちたこの森にあって、僕は深海の底にひとり取り残されたような気持ちになってくる。寂しくはないが、ひとりであるということを全身全霊で実感している。スタンドアローン(stand alone:自立)は同時にロンサム(lonesome:孤立)でもあるのだ。
人間がひとりで生きていこうとするときの困難は、そこにある。自立しなければならないのだけれど、孤立するわけにはいかない。実際問題として、確かに、人間はひとりでは生きていけないのだから。
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